シュヴィーツの作家マインラート・イングリーン(1893-1971)の長編小説『スイス鑑』(Schweizerspiegel, 1938)について――精神的国土防衛との関わり

発表者
田村 久男
日時:
2015年5月23日
場所:
明治大学駿河台校舎 研究棟第5会議室

発表要旨:

イングリーンの代表作とされる『スイス鏡』は、出版の翌年に開かれたスイス博覧会に原稿が展示されたこともあり、当時のスイス政府の文化政策であった「精神的国土防衛」とのかかわりで論じられることが多い。この作品は、第一次世界大戦中の国境防衛のための総動員から大戦末期におきたゼネラルストライキに至るまでのスイス社会の様々な混乱を描く。作品全体のモティーフは19世紀的市民社会の没落と挫折であり、このようにネガティーブな内容を基調とする作品がなぜ当時の文化スローガンに利用されたのか、作者イングリーンの生涯を概観しつつ、作品の再検討を試みた。