ダニエル・ツァーノの”Mein Herr”

発表者
荻野 静男
日時:
2013年5月11日
場所:
明治大学駿河台キャンパス リバティータワー 6F 1062教室

発表要旨:

短篇小説”Mein Herr”(『旦那さま』)はダニエル・ツァーノの初期短篇集『ターバン博士』の第5番目に収録されるもので、全9篇を収めるこの短篇集のまさに中心的佳品といえる。テーマは第三帝国時代のジプシー女性に対する迫害で、堕胎や不妊手術への言及がある。また主人公の女性は強制収容所における所長らへの性的奉仕をも物語る。語り口はこの短篇集特有のモノローグ的なものだ。収容所からの解放後理容店を営む主人公が、自らの過去の体験を男性客に一方的に物語るという設定である。叙述方法の中には、映画のカメラワークを思わせるものもある。また作者と語り手とは必ずしも分離しておらず、語り手の中に作者が忍び込むこともある。そして隠喩的表現も見られ、「茶褐色」といった色彩によるナチの暗示や男性の髪を刈ることによるペニス切除の暗示が読み取れる。この短篇はその深部において、ドイツ語圏における男性支配との対決を主題に据えている。